なんとなくツーバス・ツインペダルの練習曲について調べていたのですが、どうも納得のいかない選曲をしている人が多かったので、メモを兼ねて自分で書くことにしました。
「様々なパターンを網羅したツーバステクニックを身につけるならこれは必修だろう」という曲を取り上げている人が意外といないのです。
私自身はヘルニアであまり体に負担のかかることができなくなってしまいましたが、今回はただ速いだけではない、明確な意図による本気のツーバス練習曲リストを紹介するので、ぜひ最後までお読みください。
①STRATOVARIUS / Eagleheart
とは言いつつも最初は無理のないテンポからスタート。
この手のウェブ記事で「120BPMぐらいのゆっくりなテンポから始めよう!」的な内容をよく見ますが、もうちょい遅くてもいいと思います。
ツーバス練習の第一歩として推したいのが世界に一つだけの花みたいだとよく言われていたSTRATOVARIUSの「Eagleheart」です。
おおよそ200BPMの8分音符なので、16分音符換算で実質100BPMです。
(※こちらのカバー動画冒頭のドラムイントロはこの人のオリジナルです)
STRATOVARIUSで同じようなテンポなら個人的には「Hunting High and Low」の方が好きなんですが、「Eagleheart」はAメロの変則的なキックの入れ方等、フレーズにバラエティがあります。
なお、全ての曲に言えることですが、ツーバス連打の練習だけしたい場合は原曲のフレーズ無視して一曲丸ごと両足で踏みっぱなしでも全然いいと思います。
②YNGWIE MALMSTEEN / Rising Force
おおよそ250BPMの8分で実質125BPMといったところ。
テンポのちょうどよさや多彩なフィルインに加え、この曲はシンコペーションが多用されているのが最大のポイントです。
ツーバス連打中のシンコペーションは右足ではなく左足のキックと同時にシンバルを叩くことになるので、慣れないうちはリズムが崩れがちになります。
この「Rising Force」はアルバム収録バージョンこそが最高だと思うのですが、原曲通りに叩いている良い動画が見当たらないのが残念。
③ROYAL HUNT / Martial Arts
ここらで3連の曲にチャレンジ。
こういうのは12/8拍子ということでいいんでしょうか。
こちらは年末の風物詩、蝶野正洋のテーマ曲です。
「イントロは知ってるけど実は1曲通して聴いたことがない」という方も多いのではないかと思います。
これも先ほどのシンコペーション同様、右足ではなく左足のキックと同時にシンバルを叩くという動作が頻出します。
厳密には、蝶野のテーマ曲はこの「Martial Arts」をおそらくコピペで無理矢理ロングバージョン化した「CRASH~戦慄~」となります。
余談ですがこの曲、ドラムが打ち込み臭いんですよね。
今調べても明確な情報が出てこないのですが、ROYAL HUNTはキーボーディストAndré Andersenのバンドでありながら、初期作はキーボードが彼自身の演奏ではなく打ち込みだったと明かされていたはずです。
もしかしたら他のパートも(全てではないにせよ)打ち込みで製作されているのかもしれません。
まあ何にせよフレーズは聞き取りやすいですし、実質おおよそ130というBPMもステップアップにちょうどいいです。
なお、この手の3連ツーバスでテンポが速い曲としてはCHILDREN OF BODOMの「Silent Night, Bodom Night」が思い浮かびます。
④SONATA ARCTICA / Black Sheep
16分換算のBPMで100ぐらい、「なぜここにきてテンポを落とす?」と言われそうですが、この曲はツーバスの意識を切り替えるための練習曲として極めて重要だと考えています。
なんせイントロ→Aメロ→Bメロの3/4拍子とサビの4/4拍子を行き来するうえ、ギターソロ前半だけキックが3連符になります。
また、この3連符の箇所だけ抜き出すと、通常の16分連打換算で実質150BPMとなり、先ほどのアイム蝶野よりさらにスピードが上がります。
⑤SEX MACHINEGUNS / みかんのうた
よくあるウェブ記事だと後半はひたすらBPMが上がっていくんですが、テンポが速いツーバスの曲なんかメロスピなりブルデスなり探せばいくらでもあるので、引き続きさらに真面目に練習になる曲をチョイスしていきます。
という流れでマシンガンズの「みかんのうた」を挙げると「バカにしてんのか」と言われそうですが、いやみかんのうたバカにすんなよ。
ライブバージョンがやはり楽しいのですが、2018年の再録バージョンが高音質なのでこちらにしましょう。
BPMは135ぐらいでしょうか。
よく聴くと、イントロで部分的に登場するツーバス連打が地味に裏拍スタートだったり、細かい連打フレーズが随時挿入されたりと、決して速くないこのテンポで十分に難しいです。
そして本題からは逸れるものの重要なのがAメロ、「みかんは!いろいろ!」のキメと普通の8ビートを交互に繰り返す箇所。
結構うまいメタルドラマーでもここでリズムがずっこけるのを数限りなく見てきました。
速すぎない分ごまかしがきかないこの曲をちゃんと叩ける(踏める)か、というのは、技術評価の指針としてかなり優秀だと思うのです。
⑥GALNRYUS / Point of No Return
すっかり国産スピードメタルバンドの代表格となったGALNERYUSですが、活動初期から10年以上に渡ってドラマーを務めた佐藤潤一の特徴的な足技として、IRON MAIDEN的なリフと完全にシンクロした「ドッドコドッドコ」というツーバスフレーズがありました。
こちらの「Point of No Return」でもイントロ後半(0:45~)やAメロでこのパターンが登場します。
慣れればそこまで難しくないようにも感じますが、「ドッドコ|タッドコ|ドタドコ|タッドコ」のように2拍目4拍目以外のところにスネアを入れようとすると難易度が急に跳ね上がるのがこのフレーズの面白いところです。
四肢独立のトレーニングにも適しているのではないかと思います。
⑦HELLOWEEN / Mr.Torture
ジャーマンメタルの雄であるHELLOWEENの楽曲はツーバス練習曲としても大定番ですが、ここではその文脈から無視されがちな一曲を取り上げます。
(「Eagle Fly Free」なんかオッサン10人に聞いたら10人が挙げるような曲をわざわざ紹介するまでもあるまい)
こちらの「Mr.Torture」は、当時のドラマーUli Kuschが作曲したこともあってかイントロが妙に難解なのですが、ツーバス視点で着目すべきはAメロ(0:26~)、ギターリフとシンクロしたバスドラムのフレージングです。
近年のエクストリームメタルやdjentといったジャンルでは高度に複雑化したリフとキックのユニゾンが常態化していますが、そういったアプローチへの足掛かりとして比較的取り組みやすい構成といえるのではないかと思います。
なお、このイントロは最初だけ2/4拍子でそのあとは普通に4/4拍子であり、慣れれば普通に拍をカウントすることが可能です。
自分も初めて聴いたときは意味が分からなかったですが、冒頭2拍待ってベースが入ってきたところから数え始めればスッと理解できると思います。
Songsterrに上がっているドラム譜がけっこう正確に採譜されていると思うので、この部分に興味のある方は参考にしてください。
⑧ANGRA / Nothing to Say
ANGRAというとボーカルEdu Falaschi・ドラムAquiles Priester期の「REBIRTH」や「TEMPLE OF SHADOWS」をフェイバリットに挙げる人も多いですが、個人的にはやはりAndre Matosがボーカルを務めた初期の印象が強いです。
2ndアルバム「HOLY LAND」から顕著になったバンドの特色「クラシカルなパワーメタルとラテンミュージックの融合」は、まさに当時のメインソングライターであるAndreの功績です。
その象徴ともいえるのがこの曲でしょう。
イントロのギターリフは極めてシンプルでありながら、欧米のスピードメタルバンドからは100%出てこないフレーズです。
このリフとシンクロしたツーバスの連打に加え、8分裏拍で刻むライドシンバルや16分裏拍に入るスネアが、独特のラテンフレーバーをさらに強調しています。
これはメタルの王道的なドラムだけ聴いていたら絶対に練習する機会のないパターンなので、ぜひやってみていただきたいです。
⑨ANGRA / Spread Your Fire
「ANGRAは初期の方が」といった舌の根も乾かぬうちですが、そうはいってもこの曲は外せません。
Aquiles Priesterはその強力な足技に加え、オルタネイトの手順を守りながら隙間隙間にエフェクトシンバルを挿入する合理的なフレージングを特徴とし、現代メタルドラマーに多大な影響を及ぼしました。
その魅力がフルに詰まっているのがやはり「Spread Your Fire」でしょう。
本来なら本人の演奏動画を紹介するのが筋なのですが、ちょっとカメラワークも音も良くないので、摩天楼オペラの響によるカバー動画を貼っておきます。
ギターソロの中盤あたり(2:40~)が必見です。
彼はメタルの叩いてみた動画を数多く投稿しているほか、ドラムマガジンの企画でこの曲の解説動画もアップしており、非常に参考になると思います。
ギターソロ部分の解説は7:54あたりから。
⑩CYNIC / Evolutionary Sleeper
最後はこちら。
私がCYNICファンだということを抜きに、トリはこれ以外ありえません。
この「Evolutionary Sleeper」で登場するフレーズは、なんと左足スタートでツーバスを踏まないと再現不可能です。
16分音符のツーバス連打を左足キックとハイハットの同時踏みからスタートすることにより、Aメロ(0:40~)における16分の裏拍にアクセントのハイハットを入れるという芸当が可能となります。
こちらはSean Reinert本人による演奏動画。
私はこのからくりに気付いた時に強烈な衝撃を受けました。
このブログの過去記事にも書いているので、詳細はそちらをご覧いただければと思います。

Sean Reinertはあまりにも過小評価が過ぎると思っていて、なんせいつぞやのドラムマガジンのツーバス特集でDRAGONFORCE(当時)のDave Mackintoshが「影響を受けたドラマーはSean Reinert」と名前を挙げたにもかかわらず、インタビュアーが知らなかったのかろくな返しができていなかったうえに、記事で「ショーン・レインハート」と記載していたのは未だに時々思い出してイライラします。この曲の譜面を載せんかい。
話が逸れましたが、私が考える最強のツーバス練習曲集は以上となります。
スピード追及にとどまらない練習フレーズを探している方の参考になればと思います。
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