Epiphone Coronetに関するGibsonとSatellite Amplifiersの裁判について

スポンサーリンク

前のFenderの時もそうだったんですが、どうも老舗の大手メーカーと新興メーカーが権利関係で対立すると、SNS等では老舗の方がやたらと叩かれる印象があります。
先般話題となったCoronetをめぐるGibsonとSatellite Amplifiers(以下Satelliteという)の闘争に関してみても、Gibson側ばかりが叩かれているのが目に入ります。
この状況には多少の違和感があるので、日本語の情報が少ないことに鑑み、概要をまとめつつ自分なりの意見を書いてみることにしました。

スポンサーリンク

※前提:Gibsonはクソ

これは最初にはっきりさせておきますが、私は全くもってGibson完全擁護派ではありません。
Gibsonといえば、ヘッドレスギター/ベースのSteinbergerや、DTMソフトSONARでおなじみだったCakewalkといった名だたるブランドの権利を取得しておきながら、ろくに商売に活かさず、その価値を毀損してきました。
契約を交わしていたアーティストからの悪評も多いですし、全く売れなかったFirebird Xを重機で踏みつぶして処分する動画の流出も記憶に新しいです。

ただ、「どうせ今回もあいつが悪いんだろう」とか「大手と中小のケンカはだいたい大手の方が悪い」とかいうような決めつけは、建設的な議論の妨げになります。
また、「どちらがより完成度の高いギターを作っているか」というのも話の本筋とは関係ないはずです。
そこで、Gibsonのダメっぷりにはひとまず目をつぶり、今回の経緯を見ていきましょう。

スポンサーリンク

Epiphone Coronetというギターについて

Gibsonの下位ブランド的なイメージが強いEpiphoneですが、元々は独立したメーカーであり、CasinoをはじめとしたEpiphoneブランド独自の製品も多く存在します。
Gibsonの傘下に入ってからもEpiphone特有のギターは作られており、1959年から1970年にかけて製造されたCoronetもその一つです。
ペグ配置は3+3とL6の2種類が存在します。

このEpiphone Coronetは、1990年代に復刻販売されたほか、バイカーのためのフェス「Sturgis Buffalo Chip」の限定デザインモデルが2011年と2012年に製造されています。
そして2015年には、日本製のEpiphone Elitist Seriesから奥田民生モデルが限定販売されました。

Satelliteの動き

では、対するSatellite側の主張を見てみましょう。
以下は、Satelliteの言い分からまとめた今回の話の流れです。

・Gibsonが1999年にCoronetを放棄したことから、Satelliteは2016年、ギターに関する「Coronet」の商標権を取得し、ヴィンテージCoronetのデザインを再現したギターの製造に着手。2017年からSatellite製のCoronetを販売し始めた。

・しかし2020年6月、Gibsonにより、Satelliteが取得したCoronetの商標権を取り消す手続きが取られた。
・これに対しSatelliteは、「Gibsonは1999年にCoronetを放棄して以降ずっと、Coronetを保護したり、存続させようとしたりすることを全くしなかった。なぜ今になってGibsonがまたCoronetの権利を主張し始めたのかというと、我々SatelliteがCoronetを復活させ、Coronetの存在を知らなかった新たな顧客に知らしめたからだ」と主張した。
・そしてSatelliteはGibsonに対し、Coronetというブランドの買い取りを提案したが、Gibsonはそれに回答しなかった。

商標について

ここでちょっと本題から離れて、商標制度についてざっくり説明します。
「特許」という言葉は知っていても、「商標」はよく分からないという方が多いかもしれません。

財産的な価値を持つ創作物やアイデアのことを「知的財産」といいます。
そのうち、斬新な発明や、容易に思いつかない製造方法などを権利として保護するのが特許権です。
そして、「識別力」(他の商品やサービスと区別させる力)を持つ独自の名前やデザインを権利として保護するのが商標権です。

特徴のある独自の名称やデザインを商標権によって守るには、その名称/デザインに識別力があると証明するために、場合によって弁護士や弁理士といった専門家の助力が必要になります。
また、アメリカも日本と同様、「商標権は一定期間ごとにお金を払って更新しなければならない」「更新料を払い続ければ商標権は永続するが、更新料を払わなかった場合は権利が失効する」という仕組みになっており、商標権を維持し続けるにもお金がかかります。
さらに、商標登録は商標ごと・また国ごとに別々の申請が必要なので、販売する商品の種類が多いほど、また商品が世界規模で流通しているほど商標の管理コストは跳ね上がるのです。

以上のように、どこの国であっても知的財産を守るには大変な費用がかかります。
ただ、今回ポイントになるのが、日本をはじめとする多くの国の商標制度とアメリカの商標制度には大きな違いがあるという点です。

日本やEUなどでは「登録主義」という考え方により、商品名やデザインを最も早く商標登録した者は、たとえその商標を実際に使っていなくても商標権が認められます。
これに対し、アメリカでは「使用主義」といって、先にその商標を使用した者であれば、商標登録をしていなくても商標権が発生すると考えられています。
これ覚えといてくださいね。

Gibson側の落ち度と思われるポイント

Satelliteの主張を読んだ私は最初、「かつてはGibsonがCoronetの商標権を有していたが、1999年にGibsonがその更新を中断したため、Gibsonの権利が失効した」のだと思っていました。
一方、色々調べていると、「もともとGibsonはCoronetの商標権を取得していなかったのでは?」という話もあるようです。
(正確なところをご存じの方がいらっしゃいましたら是非ご教示ください)

いずれにせよ、使用主義を採るアメリカではGibsonにとって商標権を取得する優先度が低い(お金をかけて権利化しなくても先行使用者としての権利主張はできる)ので、知的財産管理に要する予算を抑えるうえで「レスポール等の代表的なモデルについてのみ商標権を維持し、Coronetは商標権更新の対象から除外する(あるいは最初から商標登録しない)」という戦略には一定の合理性があります。
しかし、その戦略のリスクこそが他の会社に商標権を取得されてしまう可能性です。
実際Satelliteは、Gibsonが権利化しない状況にあった「Coronet」という商標を、正当な手続きのもと取得できたわけです。

私見

私は法律の専門家でも何でもないので、細かい部分の理解に間違いがあるかもしれません。
また、当然意見が異なる方もいると思います。10人いれば10通りの考えがあるでしょう。
ここからは完全に個人的な意見です。

私はこの件に限らず、基本的に「オリジナルこそが最も保護されるべきだ」という考えを持っています。
しかしこの件で私がGibson寄りに立つ理由はそれだけではなく、Satelliteのやり口が腹立たしいというのも大きいです。

先に書いた通り、Satelliteは「Gibsonは1999年にCoronetを放棄し、一切存続させなかった」と言っています。
しかし、先述の通りGibsonは2000年以降もEpiphone Coronetを製造しており、Satelliteの言い分は明らかに嘘です。

加えて問題視すべきなのが、SatelliteがCoronetに手を出したタイミングです。
日本製の奥田民生モデルCoronetが発売されたのが2015年のことで、日本人ミュージシャンの名を冠した限定品であるにもかかわらず、そのマニアックな仕様と完成度の高さは海外のギターマニアの間でも話題になったと聞きます。
で、SatelliteがCoronetという商標を取得したのはその翌年の2016年です。

これを踏まえると、Satelliteの「せっかく自分たちが新たな市場を開拓したのに、Gibsonがその顧客を奪って儲けようとしている」とでも言わんばかりの主張にどの程度の信用性があるでしょう?
客観的に見れば、むしろ「Satelliteは『Coronetをヴィンテージと同じ仕様で復刻すれば儲かる』と踏んで、Gibsonに文句を言わせない予防線(あるいは交渉の材料)としてCoronetの商標を取得した」とも思えないでしょうか。

そもそもSatelliteが発表する声明は、「弱い者いじめは嫌いだ」等、読んだ人に「おのれGibsonめ!Satelliteがんばれ!」と思わせる広報戦略感が強い文章が多いです。
また、「Gibsonは1999年にCoronetを放棄した」という表現(権利を放棄したのか製造を中断したのか何なのか分からない)など、妙にぼかした書き方も、読み手に「Satelliteの方が正しい」と感じさせ、世論を味方につける意図があるように思えてしまいます。
「SatelliteがGibsonにCoronetブランドの購入を提案した」というのも、「我々Satelliteは今後もCoronetを作りたい、Gibsonさんにお金を払うから商標権を維持させてくれ」なのか、「EpiphoneからCoronetを出したいならGibsonは我々Satelliteの商標権を買い取れ」なのか、真意が不明確です。
(※Gibsonは公式声明でこの提案に触れ、「これはいくらよく見ても紛らわしいが、Satelliteの『他のブランドの商標から利益を得て市場で成功する』という本当の意図を物語っている」と言及)

商売における筋としては、Coronetの正統な復刻モデルを作りたいのであれば、商標権の獲得を目的とする交渉をギターを作る前にGibsonに持ちかけるべきでしょう。
あるいは、Gibsonの許可を取らずにコピーモデルを作るのであれば、(私はこういうやり方は嫌いですが楽器業界でよく見る手段として)リスペクトを込めつつ丸パクリにならないようデザインの細部をアレンジしたうえ、直接的でない名称を与えるべきだったのではないか、と思います。
というか本家の商標をこっそり取得するようなこと普通やりますかね。完全に自分から事態悪化させに行ってんじゃねえか。

なぜGibsonが勝ったのか想像

Satelliteおよびその支持層は、「潤沢な資力によって優秀な弁護士を雇ったGibsonに対し、小規模メーカーであるSatelliteは法廷闘争を継続することができず、Coronetの商標を放棄せざるをえなかった」という趣旨の主張を行っています。
でもこれも違う気がしないですかね。
ここまでの情報を総合すると、Satelliteには最初から勝ち目などなかったのではないでしょうか?

先に説明したように、アメリカの商標制度は先に商標を使った方が強い「使用主義」です。
今回の話で行くと、「60年前からCoronetという名前のギターを一定程度継続・反復的に販売してきたGibson」と、「Gibsonが最後にCoronetを販売した翌年に商標権を取得し、2017年から販売を開始したSatellite」の二者。
登録主義の国の話ならさておき、使用主義のアメリカにおいては、オリジナルCoronetの先使用者であるGibsonの方が圧倒的に優位であるように思えます。

ネットでよく見るGibson批判として、「他社のギターをGibsonのパクリ扱いしてスラップ訴訟を仕掛けるも連敗」みたいなもの(※実態を正しく表現しているかは置いといて)があります。
今回のGibsonは逆に「大企業だから勝てた、弱い者いじめだ」というような路線で叩かれていますが、従来の調子で言うならむしろ「いつも裁判で負けてるイメージのGibsonにさえ勝てなかったSatellite」ではないでしょうか。
結果から見ると、「こっそり商標を取得しておく」というSatelliteの戦略は、使用主義のもとでは特に機能せず、強いて言うならGibsonを本気で怒らせる効果しかなかったわけです。

※なお、2019年に「Gibsonが裁判に負けてFlying Vの立体商標の権利を失った」というニュースがありましたが、あれはEUでの話で、EUは日本などと同じく登録主義なので、当然「早いうちにGibsonがちゃんと商標登録しとかなかったのが悪い」という話になります。
それと今回のアメリカでのCoronetの件は別物として捉えるべきかと思います。

個人的結論:GibsonはクソだけどSatelliteはクソ以下

最初に強調した通り、私はGibsonに対して何ら思い入れもなく、どっちが勝ってもどうでもいいです。
ただ正直、GibsonとSatelliteのいずれもケンカの仕方がまずく、軟着陸できそうな地点を互いに見逃がしているとしか思えないのに、Gibsonばかりが叩かれているのを見て「なんだかなあ」と思っただけです。
とはいえこの結論は「個人的な思想信条に照らすとSatelliteの方がよりムカついた」ということに過ぎず、「Gibsonはクソ」という前提を覆すものでは一切ないことを付言しておきます。

なお、Satelliteの「GibsonはCoronetを放棄」という主張に改めて反論するかのように、2020年11月にEpiphone名義のCoronetが復活しました。
Gibson側の対応はこのリイシュー販売を見越したものだったのでしょうが、これによって現状、「アメリカ国内においてはGibsonが正当な権利を有する」ということの根拠はより強固なものになったと言えるのでしょう。


各通販サイトの価格はこちらからチェック↓

コメント

タイトルとURLをコピーしました